貿易黒字国中国が見つめる世界】
2014.8.30



 

K.Wada 2014.8..30

  かつて、わが国は、輸出攻撃をかけアメリカをまるごと買取るほどの鼻息であった。自由貿易という言葉を楯にして、一人勝ちのどこが悪いのかと、工業界も政界も国民のすべてがそう信じて疑わなかった。
 
 アメリカが自動車に関して数量規制をかけるのは、自由貿易の風上にもおけない野蛮な、非合理的な行為であると映ったものだ。
 
 安くて良質な製品を輸出して相手国のその産業を潰すことは、なんら問題はなく、相手国がもっと有利な産業に特化すべき、資源の効率化の問題に帰すると信じてきた。良心をとがめる必要は、金輪際なかった。
 
 わが国の場合、西洋の合理主義を取り入れるときに、その合理的な部分のみを取り入れ、その根底に潜むクリケットの精神、相手に立ち直りの機会をあたえる余裕の場を取り入れることに不首尾であった。その結果、商売相手から不信感をいだかれた。
 
 中国の方が日本よりアメリカから理解されるのは、商売のWIN−WINの精神の理解度によるものと思われる。
 
 中国の訪問団がアメリカを訪問する時は、どでかいプレゼントを一企業のために持参し、商談を成立させる。わが国の精神風土にはこの精神はない。
 
 今、この中国が世界を泣かせている。
 
 ヨーロッパは、リセッションに入っている。そこに中国は容赦なくデフレ輸出を積み上げている。南ヨーロッパには零細に企業を経営しているところが多い。織物業、靴産業、電化製品、モバイル通信産業、家具。ここに中国製品が入り込んでくる。同じ池のなかで釣りをしているイメージだ。15年前は競合する品目は15パーセント程であったものが、現在では35パーセント5,775品目となっている。
 
 では、競争の環境はどうであろうか。
 
 中国元とユーロの為替レートが問題となる。
この3月、1ユーロが8.5元、5月、6月は8.6、8.4と推移し、今年前半までは、5〜6%元安にふれていた。ここに来てようやく、1ユーロ8.15元と元高基調となっている。
 
 同じ池で釣りをしているメンバーは餌の違いで勝負にならなくなる。
 
 こんな調子で中国の貿易収支はこの7月には、473億ドルの黒字である。この数字が昨年に比べてどれだけ大きいか。
 
 昨年7月の中国の貿易黒字は178億ドルであった。60%の増加である。6月の数字に関しても、昨年の271億ドルから今年の359億ドルに増えている。
 
 ヨーロッパも手をこまねいている訳ではない。ただ、EUの中心国であるドイツの緊縮の方向への理念と他のメンバー国との隔たりが大きかったのも事実である。
 
 ヨーロッパのリセッションが現実のものとなりつつあるとき、これまでの元安に対策を講じざるを得なくなった。
 
 ドイツは自国のソーラー産業が中国のコピー製品により市場から排除されている現実の前に、ヨーロッパ全体の問題意識として、ようやく重い腰を上げ始めた感じがする。
 
 ヨーロッパ中央銀行ECBは、マネタリー政策として、これまでの緊縮を緩めることにより防衛としての弱いユーロを目指すことになる。
 
 中国の自由貿易主義の理念はどこら辺にあるのか。かつて、利益を度外視して南アフリカに尽くし、台湾との関係を後退させた、政治の優位性を経済に強いる理念なのか。
 
 経済学は政治学の端女(はしため)であるという理解に組するならば、中国の方向を非難はできない。

表紙に戻る