No.268

「流動性の罠を回避できるか、中国」

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わが国の失われた15年。現在のなりふり構わない日銀の量的拡大政策は、流動性の罠に果敢に戦いを挑んでいる姿に見える。

 雇用はどんなことをしても確保しないといけない。能力と体力のある若者を遊ばせておくことは、どんな政権にも許されるものではない。経済政策上の最大の犯罪に相当することに異論はなかろう。

 債券の利子が2%を下回ると現金で保有したほうがリスクが少ないと誰しも考える。儲からない、あるいは儲かる期待がないところに、わざわざ資金を向けはしない。たとえ、どんなに資金をジャブジャブ与えられたとしてもそうだ。かくして、経済の血流は途絶えることになる。

 日銀は、それでも、これでもかと資金を世の中に流し続けている。それはその行動を続けていけば、いつかは、あるいは、そう遠くない将来においてインフレになると信じているからである。それは、儲かる現実が実際にやってきたときに初めて、現金は羽がはえたように債券に飛んで行きインフレは到来する。それは、確かであろう。

 中国のこの7月のM1(マネーサプライ統計の指標)の伸びが前年同月比で25.4%の高い伸びとなった。現金と当座勘定M1が伸びているという意味は皆さんが現金を嗜好しているということだ。定期預金を含めた広い意味での通貨流動性を示すM2は10%台の伸びということで低調である。企業の資金は現金保有と内部留保を好み、設備投資にはいきたくないとダダをこねている姿に写る。

 これを裏付けるかのように中国人民銀行の調査統計局長はロイター通信のインタビューに答えて、企業は流動性の罠に陥っていると発言している。M1の伸び率と経済成長率の間に乖離が生じているのは企業の投資意欲に翳りがあるからだと言っている。そこから、有効な対策としては利下げよりは減税が有効だと指摘している。

 IMF国際通貨基金が先月発表したところによれば、中国の企業部門向け借金はGDPの145%となり、この脆弱性は危険な軌道を描いていると指摘している。だからといってジョージ・ソロスのように憎憎しげに中国経済にソフトランデングはありえないと言うつもりはない。最悪の場合、わが国のように失われた15年の再来となるだけかもしれない。

 8月のM2は11.4%と7月よりは若干高まってはいる。しかし、人民銀行は信用リスクに焦点をあて、追加緩和は今後数ヶ月は手控えられると見られている。

 8月の新規融資の大半が住宅ローンで、個人向けが70%を占めている。リスクとはいつも背中合わせで、住宅価格が急落でもしようものなら、不良債券化した物件をかかえた、銀行の被る打撃も半端ではなくなる。ちなみに、8月末時点での中国社会融資総量残高は149兆8,300億元(約2,300兆円)となっている。

 この初頭に中国は、資本逃避でパニックに陥った。それ以降の逃避として、この7月に$42bn(約4兆2,000億円)の数字となった。当局は準備金を切り崩して対処した。輸出で稼いで潤沢な準備金があるからといって、このペースで資本逃避が続くとき危険サインのベルが鳴り響くだろうと言われている。

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