さりげなくニュース2012.9.09

 
 シリア情勢は混沌としている。日本人フリージャーナリストが反体制側での取材中に弾丸に倒れた。
 
 アサドはよく持ちこたえている。一度権力を握ったものは、手放した時はリビアのカダフィー大佐の運命が待っているとは百も承知であろう。彼は政治とは無縁の生活を続けていたが兄の死で降って湧いたように政治の世界に飛び込まざるを得ない宿命を帯びた人物だ。今、モラル、ハザードという面から体制側は、戦術面で焦りを見せ始めている。体制内からは多数の軍、セキュリティ幹部の離脱者を出しているということがあげられる。イラクのフセイン大統領亡き後にイラク国民がアメリカと長きにわたって戦い続けたように、アサドの体制を支えているアラウィ派は、戦い続けうるのか。
 
 今回の戦いはアメリカが全面にはでてきてはいないという決定的な違いがある。国内のスンニ派国民やゲリラ戦のプロであるアルカイダを主力にして戦わせている。アメリカの陰がはっきりと見えては来ない。それが一見市民同士による内戦の様相を濃厚にしている。アメリカは誰に遠慮しているのかアサドの空からの攻撃を抑止する地対空武器を自由シリア軍に与えてはいない。
 
 自由シリア軍は7月18日のアタック以来戦闘意欲が大きく高まった。体制側のセキュリティ将校を死においやり、トルコ、イラクの国境付近での戦闘を確かなものとすべく攻撃を重ね、現在のダマスカスやアレッポへと進軍を重ねてきた。こういう状況下、アサド政権側は、先例の無い空軍力を使い始めた。被害は一般市民にも多大に及び始めることになる。
 
 ヒラリー米国務長官はトルコ側と会談を重ね、シリア国内に飛行禁止区域を設けるために動き始めた。リビアでの戦争後期にはこの飛行禁止区域の設定は大きな効果をもたらした。しかし今回のシリア問題でのリビアとの決定的な違いは、大国のロシアと中国がシリア攻撃に反対していることである。ロシアが冷戦時のようなパワーを有しているならば米ロ代理戦争と位置づけも可能ではある。だが、現在の力関係ではアメリカが断然優位に立っている。つい最近まで一国支配体制とまで言われた国である。そういうわけで、今回はイランとサウジアラビアの代理戦争と位置づけうる。イランは同盟国であるシリアのアサドを支える立場にあった。だが無制限支援ということからトーンダウンが指摘されてきている。
 
 8月31日閉幕した非同盟諸国主脳会議は、テヘランがホスト国となり、アサド問題が話し合われた。ここでは、初の市民による選挙で選ばれたエジプトのモルシ大統領が仲介役の立場を顕にした。彼は、政治権力がアサドからスンニ派国民の手に移ることを主張した。この問題についてはイランとの間で歩みよりはなかったと見られている。反体制派支持の共同声明はなかった。
 
 スンニ派の国であるトルコの立場はアサド退陣である。この紛争が長引くことはトルコへの経済的負担が日に日に増していくことになる。シリアから逃れてくる難民の数が5万人に達している。それに、政治的には国境付近で活動を活発化させているクルド問題も敏感になりだしてきている。
 
 つかの間、アサド支持の立場にあるロシアのプーチンはオリンピック柔道の観戦をしていた。となりには、イギリス首相キャメロンの姿がある。なにやら言葉を交わしている。永年の情報戦での敵国同士が、どんな腹の探り合いをしたものやら。一見平和ムードを醸し出しているワンショットに見えた。